東京地方裁判所 昭和63年(ワ)70276号 判決 1990年11月19日
原告 株式会社東京銀行
右代表者代表取締役 井上實
右訴訟代理人弁護士 平賀健太
同 宇田川忠彦
被告 塚本商事株式会社
右代表者代表取締役 塚本清
右訴訟代理人弁護士 久保田穰
同 増井和夫
主文
一、被告は原告に対し、金一七〇万米ドル及びこれに対する昭和六二年六月一一日から支払済みまで年一〇・五パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による金員を支払え。
二、訴訟費用は被告の負担とする。
三、この判決の一項は仮に執行することができる。
事実
第一、当事者の求める裁判
一、請求の趣旨
主文同旨
二、請求の趣旨に対する答弁
1. 原告の請求を棄却する。
2. 訴訟費用は原告の負担とする。
第二、当事者の主張
一、請求原因
1. 原告は、昭和六二年六月五日、被告から別紙手形目録記載の信用状(別紙信用状の表示記載のとおり。以下「本件信用状」という。)付荷為替手形一通(以下「本件手形」という。)の買取を依頼され、本件手形及びその付属書類(商業送り状、船荷証券等)の交付を受け、同月九日、被告に代金二億四一九一万円を支払って本件手形を買い取った。
2. 原告は、同月八日、確認銀行である株式会社第一勧業銀行(以下「第一勧銀」という。)に本件手形を呈示して、その再買取を依頼し、本件手形及びその付属書類を同銀行に送付し、同月一〇日、手形再買取の対価として同銀行から手形金一七〇万米ドルの支払を受けた。
3. 第一勧銀は、原告に支払った手形金の求償のため、本件信用状の発行銀行であるバンク・オブ・クレジット・アンド・コマース・ホンコン・リミテッド(以下「BCC」という。)に本件手形及びその付属書類を送付したところ、BCCは、第一勧銀に対し、同月一二日付けテレックスで、本件手形が本件信用状の定める受益者コーネル・ジャパン・コーポレーション・リミテッドではなく、コーネル・ジャパン・カンパニー・リミテッドの名義で振り出され、本件手形の付属書類である商業送り状等も同名義で作成されている等、書類に文面上の信用状条件不一致があることを理由として本件手形の支払を拒絶した。
4. 原告は、同月一五日以降、第一勧銀から口頭及び書面により、BCCによる本件手形の支払拒絶を理由に、原告に本件手形の買戻義務があるとして、手形金相当額の償還を請求された。
5. 被告は、本件手形の買取を依頼するに当たり、原告に外国向為替手形取引約定書(以下「約定書」という。)を差し入れ、また、別に銀行取引約定書を差し入れ、約定書二二条、一五条二項二号、八条一項一号、四項なお書き、銀行取引約定書三条二項により、原告が外国向為替手形(以下ここでは単に「手形」という。)の代り金相当額の償還を請求された場合には、原告の請求により手形面記載の金額の買戻債務を負担し、直ちに弁済すること並びに満期の翌日から支払済みまで原告の定める料率による損害金を支払うこと及び損害金の計算方法は年三六五日の日割計算によることを約した。
6. 原告は、右損害金の料率を年一〇・五パーセントと定めた。
よって、原告は被告に対し、前記約定に基づき、本件手形の買戻金一七〇万米ドル及びこれに対する満期の後である昭和六二年六月一一日から支払済みまで年一〇・五パーセントの割合(年三六五日の日割計算)による約定遅延損害金の支払を求める。
二、請求原因に対する認否
1. 請求原因1の事実のうち、被告が原告に本件手形の買取を依頼し、本件手形及びその付属書類を交付したこと及び原告が代金二億四一九一万円を支払って本件手形を買い取ったことは認めるが、買取の相手が被告であることは否認する。本件手形の売主はコーネル・ジャパン株式会社であり、被告は、原告に右買取の依頼をしたにすぎない。また、右金二億四一九一万円は、同月九日に被告の口座に振り込まれたが、これは、追って原告から連絡があるまでこれを引き出さないとの制限付であり、この制限が解除され、引出可能となったのは、同月一一日であるから、本件買取が行われたのは同日である。
2. 同2ないし4の事実は知らない。
3. 同5の事実のうち、被告が原告に約定書及び銀行取引約定書を差し入れたこと並びに約定書の条項中に原告が手形の代り金相当額の償還を請求された場合には、原告の請求により手形面記載の金額の買戻債務を負担し、直ちに弁済する旨及び原告の定める料率による損害金を支払う旨の記載があることは認め、その余はすべて争う。被告が自己の名義で原告に約定書を差し入れたのは、原告の要求に応じたためにすぎない。また、約定書にいう「手形の代り金相当額の償還を請求された場合」とは、手形法上の遡求権の行使又は契約の取消し、解除等法律の規定する事由に基づく支払済み代金の返還請求を受けた場合を意味する。したがって、仮に被告が約定書の定めるところにより、原告に対し何らかの債務又は責任を負担しており、かつ、原告が第一勧銀からBCCによる本件手形の支払拒絶を理由に本件手形の買戻義務があるとして、手形金相当額の償還を請求された事実があるとしても、これは、右約定書の定める場合に該当しない。そして、遅延損害金は、債務者が履行を遅滞した時から生じるところ、本件買戻請求は、その旨の記載のある原告の準備書面が陳述された平成元年三月六日になされたのであるから、遅延損害金の起算日はその翌日の同月七日である。
三、抗弁
1. 約定書一五条二項二号の「手形の代り金相当額の償還を請求された場合」における手形の買戻請求は、再買取先の原告に対する償還請求が正当な場合に限り認められるところ、第一勧銀の原告に対する本件償還請求は不当であるから、本件買戻請求も許されない。
すなわち、第一勧銀は信用状の確認銀行であり、善意の所持人である原告の償還義務を免除して本件手形を買い取ったのであるから(信用状統一規則一〇条b項Ⅳ)、原告に手形法上の償還請求をすることはできず、したがって、本件手形の買戻を請求することもできない。
次に、同銀行は、書類と信用状に不一致があることを理由に原告に本件手形の買戻を請求しているが、書類が信用状の条件に合致していると判断して買い取った以上、後にその不一致を理由にして買戻を請求することは信義誠実の原則に反し、許されない。
更に、同銀行は、本件信用状上の受益者であるコーネル・ジャパン・コーポレーション・リミテッド(Cornel Japan Corporation Ltd.)と本件手形の振出人であるコーネル・ジャパン・カンパニー・リミテッド(Cornel Japan Co; Ltd.)との間には不一致があるとしているが、右両者はいずれもコーネル・ジャパン株式会社の訳語であって、実質的な不一致はない。また、本件信用状の付属書類である船荷証券が、原告主張のように偽造であるとしても、信用状統一規則上、このような事由は支払拒絶の理由とはならず、第一勧銀は原告に対し、これを理由に本件手形の買戻請求をすることはできない。
以上、いずれにしても、第一勧銀の原告に対する本件手形の買戻請求は不当であるから、原告の被告に対する本件買戻請求は許されない。
2. 仮に、約定書一五条二項二号の「手形の代り金相当額の償還を請求された場合」というのが、理由の当否を問わず、とにかく償還請求を受けた場合と解するなら、当該条項は、契約当事者の一方にのみ有利となり、他方に対して不利になるから、公序良俗に違反し、無効である。
3. 被告は、本件手形の買取を依頼するに際し、原告の意見を求め、信用状及び書類の形式に欠けるところはなく、取引は安全であるとの保証を得、これを信頼して取引を行ったのであるから、その後になって、原告が被告に本件手形の買戻を請求することは信義誠実の原則に反し、許されない。
4. 約定書八条四項なお書きの損害金の料率は原告の一方的定めによるという規定は無効であるから、損害金の料率は年六分と見るべきである。
四、抗弁に対する認否
1. 抗弁1の事実のうち、本件信用状の受益者と本件手形の振出人の表示との間に被告主張の不一致があり、第一勧銀がこれを理由に原告に本件手形の買戻を請求したことは認め、その余は否認する。
2. 同2の主張は争う。
3. 同3の事実は否認し、主張は争う。原告は、被告が、約定書を差し入れ、その五条により、手形及び付属書類が正確、真正かつ有効であり、信用状条件と一致していることを保証し、支払を担保したからこそ本件手形の買取に応じたのである。
4. 同4のうち、約定書に被告主張の規定があることは認め、主張は争う。
第三、証拠<省略>
理由
一、請求原因について
1. 請求原因1の事実のうち、被告が原告に本件手形の買取を依頼し、本件手形及びその付属書類を交付したこと及び原告が代金二億四一九一万円を支払って本件手形を買い取ったことは当事者間に争いがなく、成立に争いのない甲第一号証、成立並びに原本の存在及び成立に争いのない乙第三号証の二、原告作成部分を除いて成立に争いがなく、原告作成部分については弁論の全趣旨により成立が認められる甲第二号証、証人土持和男の証言により成立並びに原本の存在及び成立が認められる同第四号証及び同証言によれば、右買取の相手方は被告であり、買取の日は昭和六二年六月九日であることが認められ、これに反する証拠はない。
なお、本件手形買取の日について付言するに、本件手形の代金二億四一九一万円が右同日に被告の口座に振り込まれたことは被告の自認するところであるから、特段の事情のない限り、本件手形の買取はその日になされたと認めるのが相当であるところ、証人土持及び同滝沢貞夫の各証言によれば、右金員の引出しにつき、原告の担当者関口が被告に対し、第一勧銀の書類点検が終わって原告と同銀行との取引が終わるまでこれをそのままにしておいたらどうかと述べ、被告がこれに従い、同月一一日まで右金員を引き出さなかったことが認められるが、関口の右発言が被告に対して右金員の自由処分を制限する強制力のあるものであることを認めるに足りる証拠はないから、本件手形の買取は同月九日に行われたと認めるのが相当である。
2. 証人土持の証言により成立が認められる甲第三号証、同証言により成立並びに原本の存在及び成立が認められる同第五号証及び同証言によれば、同2の事実が認められ、これに反する証拠はない。
3. 証人土持の証言により成立が認められ、弁論の全趣旨により原本の存在及び成立が認められる甲第七号証の一、二及び同証言によれば、同3の事実が認められ、これに反する証拠はない。
4. いずれも証人土持の証言により成立が認められる甲第一三号証、第一五号証、同第一四、一六号証の各一及び同証言によれば、同4の事実が認められ、これに反する証拠はない。
5. 同5の事実のうち、被告が原告に約定書及び銀行取引約定書を差し入れたこと並びに約定書の条項中に原告が手形の代り金相当額の償還を請求された場合には、原告の請求により手形面記載の金額の買戻債務を負担し、直ちに弁済する旨及び原告の定める料率による損害金を支払う旨の記載があることは当事者間に争いがない。
そこで、次に、右の「手形の代り金相当額の償還を請求された場合」の意味について検討するに、前掲甲第一号証(約定書)によれば、手形の買取依頼人が請求により手形の買戻義務を負うのは、右の「手形の代り金相当額の償還を請求された場合」(約定書一五条二項二号)のほか、(1)手形の取立て、再買取が拒絶された場合(同条同項一号)、(2)手形の支払義務者による支払が行われたにもかかわらず、銀行における手形の代り金の回収が遅延し又は不能となった場合(同条同項三号)、(3)右以外のときでも手形について債権保全を必要とする相当の事由が生じた場合(同条同項四号)であることはその規定から明らかである。
右規定の体裁からすると、請求による手形の買戻は、手形について債権保全を目的とする制度であって、右義務は、約定書一五条二項四号に定める手形について債権保全を必要とする事由が生じた場合に発生し、同条同項一ないし三号の各事由はその例示にすぎないと見るのが相当であるから、右の「手形の代り金相当額の償還を請求された場合」の意義についても、手形について債権保全を必要とする事由が生じたか否かという観点から解釈すべきである。そうすると、被告主張のように、右規定を手形法上の遡求権の行使又は契約の取消し、解除等法律の規定する事由に基づく支払済み代金の返還請求を受けた場合と限定的に解するのは妥当でなく、字義どおり、事由のいかんを問わず、手形の代り金相当額の返還を請求された一切の場合と解するのが相当である。
そして、本訴において、原告が被告に対し本件手形の買戻を請求していることは、その主張から明らかであるから、被告は、約定書一五条二項二号の規定により、本件手形を額面金額をもって直ちに買い戻す義務を負担したことが認められる。
そこで、更に、本件手形買戻の損害金の起算日について検討するに、原告は、本件損害金は約定書八条一項一号に規定する「手形にかかわる損害金」であると主張しているが、約定書には損害金の起算日について明示の規定が存しないことは前掲甲第一号証から明らかであるから、一般原則に従って、本件の場合においても、損害金の起算日は請求の翌日であるとする被告の主張にも理由があるように思われる。
しかしながら、前認定の事実並びに証人土持の証言により成立並びに原本の存在及び成立が認められる甲第四号証、同証言及び弁論の全趣旨によれば、請求による手形の買戻は、手形債権の保全を図り、手形金が満期に回収されたのと同様の効果を挙げることを目的とする制度であること、したがって、右条項の解釈に当たって、請求による手形の買戻の場合における損害金の起算日を、右趣旨を踏まえて満期の翌日と解することは可能であるばかりか、実際的・合理的でもあり、右買戻制度の趣旨、ひいては契約当事者の通常の意思にも適うこと、本件手形は、再買取のため、昭和六二年六月八日に第一勧銀に呈示され、本件買取の際作成された輸出手形買取計算書(写)と題する書面(甲第四号証)には、遅延金利起算日の欄にその翌日である(一九)八七年六月九日という記載がなされており、原告は、買取当初から、被告が手形買戻義務の履行を怠った場合には右年月日から遅延損害金を請求する意図であったことが認められ、これに反する証拠はない。
右事実からすれば、請求による手形の買戻の場合における損害金の起算日は、請求の時期いかんにかかわらず、満期の翌日と解するのが相当であり、前掲甲第四号証の遅延金利起算日の欄の記載は、この趣旨を明らかにしたにすぎないものと解するのが相当である。
以上によれば、被告は原告に対し、本件手形買戻金について満期(呈示)の翌日である昭和六二年六月九日から支払済みまでの遅延損害金を支払う義務があるというべきである。
そして、前掲甲第一号証、第四号証及び証人土持の証言によれば、被告が原告に対し、被告が原告に対して支払う手形の損害金の料率については原告の定めによる旨約したこと(約定書に右文言があること自体は当事者間に争いがない。)が認められ、これに反する証拠はない。
更に、前掲甲第一八号証によると、被告は原告に対し、損害金の計算方法については年三六五日の日割計算による旨約したことが認められ、これに反する証拠はない。
6. 前掲甲第四号証及び証人土持の証言によれば、請求原因6の事実が認められ、これに反する証拠はない。
二、抗弁について
1. 抗弁1について検討するに、乙第一三号証の記載中、約定書一五条二項二号の規定に基づく手形の買戻請求が再買取先の原告に対する償還請求が正当な場合に限り認められるとする部分は、以下の理由により採用し難く、他に右事実を認めるに足りる証拠はない。
むしろ、前認定の事実及び前掲甲第一号証、証人土持の証言によれば、約定書は、「手形の代り金相当額の償還を請求された場合」に手形の買戻請求ができる旨定めているだけで、償還請求の正当性のいかんについては何ら言及していないこと、請求による手形の買戻は、前に説示したとおり、手形について債権保全を目的とする制度であること、手形の買取は銀行の買取依頼人に対する与信の一種で、買取の可否、その条件等は、支払義務者の信用に依存する面があるものの、第一次的には買取依頼人の信用に依存していることが認められるのであるから、同条項は、手形の代り金相当額の償還を請求され、手形について債権保全の必要が生じた場合には、その請求の正当性のいかんにかかわらず、与信の相手である買取依頼人に手形の買戻を行わせることによって債権保全を図った規定と解するのが相当である。
したがって、抗弁1の主張は、その余の点について判断するまでもなく、採用できない。
2. 抗弁2について検討するに、右の「手形の代り金相当額の償還を請求された場合」とは、理由の当否を問わず、手形の償還を請求された場合と解するのが相当であることは右説示のとおりである。
被告は、右条項は、契約当事者の一方にのみ有利で、他方に不利な規定として公序良俗に反し、無効であると主張し、前掲乙第一三号証の記載中にもこれに符合する部分がある。
しかしながら、前認定のとおり、手形の買取は銀行の買取依頼人に対する与信の一種で、その可否等は買取依頼人の信用に依存してなされるのであるから、銀行が手形の代り金相当額の償還を請求され、支払義務者から回収した手形金の確保に不安が生じた場合に、与信の相手である買取依頼人に手形の買戻を請求できる旨定めたからといって、直ちにこれが公序良俗に反し、無効であると解することはできないから、抗弁2の主張も採用できない。
3. 弁論の全趣旨により成立が認められる乙第三号証の一、証人土持、同滝沢の各証言及び弁論の全趣旨によれば、被告の担当者は、原告に本件手形の買取を依頼するに当たり、原告の担当者に本件信用状の写しを見せるなどして書類作成の要領等について助言を求め、原告は、これに応じて、被告に委任状のサンプルを送るなどの便宜を図ったこと、その後、原告は、被告から交付された書類を審査し、形式上の不一致がないと判断して本件手形を買い取ったことが認められ、これに反する証拠はない。
しかしながら、本件手形を買い取るに際し、原告が被告に、取引は安全であると保証したことを認めるに足りる証拠はなく、また、前認定の手形買取及び請求による手形買戻制度の性質・趣旨に鑑みれば、銀行が、書類に形式上の不一致がないと判断していったん手形を買い取った事実があるからといって、直ちに、後に再買取先から償還請求を受ける等債権保全の必要が生じた場合にも、その買戻を請求できなくなると解する根拠はない上、前認定の事実及び弁論の全趣旨によれば、被告は、原告が手形の代り金相当額の償還請求を受けた場合には請求により本件手形を買い戻す旨約したこと、原告は、被告が右のように約したことから本件手形の買取に応じたことが認められるのであるから、本件手形の買戻請求が信義誠実の原則に反するとはいえず、抗弁3の主張もできない。
4. 同4の事実のうち、約定書八条四項なお書きに損害金の料率は原告の定めによる旨の規定があることは当事者間に争いがない。
被告は、原告が損害金の料率を一方的に定め得る旨の右約定は無効であるから本件損害金の料率は年六分である旨主張する。
しかしながら、いずれも証人土持の証言により成立が認められる甲第一六号証の一、二、同第二五号証及び同証言によれば、本件のような外貨をもってする取引においては、銀行は他から借り入れる等して外貨を調達する必要があるが、その場合の借入金利は、必ずしも銀行取引約定書に規定する年一四パーセント以内に収まるとは限らないので、このような事態に対応するため、右のようないわば白地規定の観を呈する条項が定められたこと、しかしながら、右条項は実は白地規定ではなく、具体的な損害金の料率は、外貨調達費用を勘案してあらかじめ定められており、現に本件損害金の料率も、従前から使用されている原告の内部規定に従って先のように年一〇・五パーセントと定められたこと、外国為替取引においては、原告以外の他の銀行でも独自に原告と同様の内部規定を置いており、原告に本件手形の買戻を請求した第一勧銀も原告と同じ料率の損害金を定めていることが認められるから、右条項及び原告が右条項による損害金の料率を年一〇・五パーセントと定めたことが不合理で無効であると解することはできず、抗弁4の主張も採用できない。なお、前認定の事実及び前掲甲第一八号証によれば、原告は、右条項に基づき、本件損害金の料率を年一〇・五パーセントと定めたこと、しかるに、被告は原告に対し、銀行取引約定書をもって、損害金の料率は年一四パーセント(年三六五日の日割計算)とする旨約したことが認められ、これに反する証拠はないところ、銀行取引約定書と約定書とは、銀行取引に関する一般規定とそのうちの外国向為替手形取引のみに関する特別規定という関係にあると解され、したがって、原告被告間の取引において約定書の条項が適用されない場合には、商法の規定に先立って銀行取引約定書の該当条項が適用されるので、仮に被告主張のとおり、約定書の右条項が無効であれば、損害金の料率は年六分ではなく、年一四パーセントになるのであるから、この点からしても被告の右主張は採用できない。
三、結論
以上によれば、原告の請求は理由があるから認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 稲田輝明 裁判官 鈴木秀行 坂野征四郎)
<以下省略>